読む毒の配布場所

品質管理(QC)について深く考えていたら脳科学や社会システム、社会問題なんかが侵食してきたのでそれを吐き出していきます。

QCのツール(QC7つ道具・新QC7つ道具)って脳っぽくね?〜脳科学的にQCツールを見直したら神と地獄が見えた件〜

今回はQC(品質管理)風味が濃いめの記事です

前回前々回「脳バグ」について書いたら絶望的すぎて疲れちゃった……本当は現場のPDCAが形骸化しやすいのは脳バグのせいじゃね?という記事につなげたかったのだけど残念ながら一旦気力が限界だ。

そこで今回はQCで大事だと思われているQC7つ道具(Q7)と新QC7つ道具(N7)を脳PDCAと絡めて再解釈してみたら面白いんじゃないかなー、と思って書き始めたのだけど……ちょっと意外なことになった。

※この記事は脳科学の厳密な解説ではなく、PDCAモデルを使ってQCツールを理解するための整理です。

QCを全然知らないという人はこちらでもどうぞ。新QC7つ道具のことはほとんど説明されていないけど。

脳モデルの「代用」ツール

QCのPDCAが脳PDCAを脳外に持ち出したものだと見立てたとき、QCツールの多くは脳PDCAの代用的・模倣的な性格を持っているようだ。

Planステージ

PDCAモデルではPlanステージは「注意→モデル構築→計画」の3段階に分かれていた。それぞれについて見てみよう。

注意プロセス

これはQCストーリーの「テーマの選定」にあたる。これに相当するのが次の2つだ。

マトリックス図法(N7):これはテーマの優先付けツールといえるだろう。脳のトップダウン的な(内的資源に基づいた)注意対象の抽出に似ている。

管理図(Q7):管理図で異常が検出されれば、直ちにその対処のPDCAが始まる。これは、新奇性のある対象が注意を奪う脳の仕組み(ボトムアップの注意)に似ている。予測通り(管理状態)のことは静観し、予想外のこと(管理外れ)にはアラートを鳴らすという、脳の新奇性検出機構を外部化・可視化したツールが管理図だといえるだろう。

モデル構築プロセス

このプロセスはQCストーリーの「現状の把握」「目標の設定」にあたる。脳PDCAモデルでは「こうしたら、こうなる」というモデルが構築され、さらに、それに対して可能な入力(行動)と出力(結果=目標)のリストが作成される。

特性要因図(Q7):特性要因図は特性と要因の階層的な因果関係(より正確には「こうしたら、こうなる」という随伴性)のモデルなので、これは脳の外界予測モデルに相当するものといえそうだ。脳PDCAがサイクルを回して外界予測モデルを高精度化していくことと対比させると、QCのPDCAサイクルは特性要因図の高精度化と関連付けられるはずだ。つまり、特性要因図は「正解を描く図」ではなく、「更新され続ける予測モデル」 でなければならない。書きっぱなしにされた特性要因図=硬直的なモデルに支配されたPDCAは形骸化を始めるだろう。

意味記憶エピソード記憶にまつわるツール群

系統図法(N7):目標←そのための行動←そのための行動、のように目的と行動を階層化するのが系統図法だ。これは、脳が例えば「映画を見に行く」という行動を以下のように分解するのとそっくりだ。

大きい目標 中くらいの目標 小さい目標 ……
映画を見る チケットを買う 財布を出す
券売機を操作する
……
移動する 電車に乗る
駅から歩く
……
……

意味記憶にある「目標」エピソード記憶内にある具体的な行動に結びつけるために、脳は系統図の作図とよく似たことをしている。つまり、系統図法はモデルに対する行動と結果のセットを階層的に記述して『目標の設定』をするためのツールと言い換えることができそうだ。

系統図が意味記憶エピソード記憶との接続だとするならば、意味記憶エピソード記憶それぞれに対応付けできそうなQCツールもある。

連関図法(N7)連関図は因果関係のネットワークだ。「放課後におしゃべりに夢中になっていたら帰宅が遅くなった」「遅くに帰宅したら母親に叱られた」のような因果関係は脳のエピソード記憶そのものなので、連関図法はエピソード記憶の模倣(図にした時点で個々のエピソードとしての具体性が「漂白」されるので模倣というより抽象化といったほうがいいかもしれない)といえそうだ。

親和図法(N7):混沌とした対象から構造を見出すためのツールが親和図法で、これは脳が記憶を一般化・抽象化して意味記憶にする過程に似ている

これらをまとめると「脳っぽいPDCAの『現状把握』」は次のような手順となる。

  1. ブレーンストーミングから親和図法により特性要因図の大要因を抽出する。
  2. 連関図法によりテーマと関連した随伴性を抽出する。このとき参照すべきは組織が記憶している「事実」だ。改善報告書ヒヤリ・ハット報告書がそれにあたるだろう。
  3. 大要因と連関図から、特性要因図を作図する。これはいわゆる「大骨展開法」だ。特性要因図の作図法として「小骨集約法」もあるとされるが、これは上記をまとめて行っているといえるだろう(ただの「手抜き」になってしまうリスクがあり、注意が必要だ)。
計画プロセス

脳の計画プロセスはQCストーリーの「対策の立案・検討」にあたる。モデル構築と同時に列挙された「階層化された行動と結果(目標)のセット」=系統図をもとに、異なった性質の行動(目標ではない) の価値を1つの評価軸に落とし込むプロセスだ。これと関わりが深いQCツールは次の2つだろう。

パレート図(Q7):たとえば「労災事故をなくす」という大目標がある場合に、事故の発生モデルを構築し、モデルが出力可能な結果(転倒事故が減る、落下事故が減る、など)を列挙する。これと現実とを突き合わせ、どの結果の価値が高いかを検討するのがパレート図だ。これにより、異なった性質の結果(目標) を1つの評価軸に落とし込むことができる。言い換えればパレート図は、目標(結果)の優先順位計算の重み変数を決定するツールだ。パレート図で「trivial many」と評価される目標は、計画から切り捨ててもよい(重点志向)。これは脳の資源が価値が高い目標に重点的に配分されることに対応している。

PDPC法(強制連結型)(N7):強制連結型のPDPC法は、最終的に結果につながるような行動の経路を分析するツールだ。これは系統図から「大目的に実際に到達できる経路」を抽出するプロセスといえるかもしれない。これにより、結果(目標)の価値を、行動の価値に翻訳することができる。

これらにより、計画(『価値』と結びついた『行動』)が得られるだろう。

Doステージ

計画プロセスから入力された行動(チャンク)のセットについて、すでに計算された価値から行動のコストを差し引き、残った価値が最大の行動を優先(解禁)するのが脳のDoステージだった。QCには単位行動をチャンク化し、解禁コストを引き下げることに関連したツールが用意されている。

標準作業書(特別出演?):およそQCを行っているのに標準作業書がないという現場はないだろう。これは繰り返された行動がチャンク化し、解禁コストが引き下げられたもの、そのものだ。脳の「手続き記憶」に相当するものといえる。

アローダイアグラム(N7):脳の行動選択は「どのチャンクをいつからいつまで解禁するのか」を制御している。それと関連するのがプロセスの時間軸と依存関係を管理する、アローダイアグラムといえるだろう。脳内では先行条件が揃っていないチャンクは解禁コストが爆上がりするようになっているし、実行中に価値(得られる報酬と消費するコストの差)が低下(十分な成果が得られる、または継続するコストが大きくなる)したチャンクは再び抑制されるという制御が行われる。この仕組みを図にしたものがアローダイアグラムと捉えたらいいだろう。

けれども残念なことに、脳はアローダイアグラムの「現時点に近い」狭い範囲しか扱うことができないらしい。時間・手続き的に遠くのアローダイアグラムは解像度が低くなり、報酬の時間割引(未来に得られる報酬ほど過小評価される)というバグが生じる。つまり、脳はまともなPERT計算はできないのだ。

チェックシート(点検・確認用)(Q7):点検や確認を目的としたチェックシートは、解禁したチャンクを実行し、それ以外の行動をしない(抑制)するという脳の行動選択プロセスが持つ性質によく一致している。さらに、この手のチェックシートは異常を検出したら通常のプロセスを止めるのにも用いられる。これは、脳が持つ行動の緊急停止システムと一致している。緊急停止が行われない場合、このチェックシートはそのままCheckステージでも活用されることになる(何しろ、「チェック」リストなので)。

Checkステージ

Checkステージで評価されるのは「目標が達成できたか」だ。つまり、このステージの核心は予測と観測された結果との比較といえる。そのためこのステージに関係するQCツールは、結果の観測に関係した次の2つだろう。

ヒストグラム(Q7)と工程能力指数:これは結果の分布統計的観測を行うツールだ。

チェックシート(記録・調査用)(Q7):これはデータの収集を通して工程を観測するツールだ。また、点検・確認を目的としたチェックシートはDoステージで活用されるばかりでなく、計画・施策の実施状況を観測するツールと捉えることもできる。

Actステージ

QCのActステージでは、Checkステージに問題が生じた場合にその要因を分析し、再発防止を図る。脳PDCAではCheckの問題(負のRPE:報酬予測誤差)に対してモデルの修正というActionをとる。だから、モデルの修正に関係するQCツールがこのステージに関係するといえる。

散布図(Q7):散布図や回帰分析で検出される相関関係は、脳が予測モデルやエピソード記憶で拠り所にしている随伴性(因果関係ではないところがポイントだ) そのものなので、これは随伴性検出ツールといえる。相関が検出されたらモデルパラメータを調整する、というのが散布図の「脳っぽい」活用法で、こうすれば「原因を突き止めた安心」による改善の停滞を防げるだろう。2つのできごとの時間的な近さから直感的に随伴性を見出す脳の戦略と比べると、QCのそれはちょっと回りくどいといえるかもしれない。

PDPC法(逐次展開型)(N7):逐次展開型のPDPC法で検出される「行き詰まり」はモデルの破綻点そのものといえるだろう。それを打開する策を立案することは、モデルの修正にほかならない。

PDCAの補助ツール

これまでに登場していないQCツールは層別マトリックスデータ解析法、そしてアローダイアグラムのうち、PERT計算などの解析手法だ。これらはいわば「脳バグ」の補正ツールといえる。

層別(Q7):「ベテランだけ事故が少ない」「夜勤だけ不適合が多い」といった分けてみたら別世界だった状況を作るのが層別だ。これはモデルの分割、コンパクト化ツールといえる。例えば離れ小島形のヒストグラムを層別し、正常データと異常データに分けることは正常データを吐き出すモデルと異常データを吐き出すモデルを切り離すことに相当する。層別によりモデルを小さくし、扱いやすくするのだ。

マトリックスデータ解析法(N7):多くの説明変数の次元を少数の次元に変換したり(正確には脳にもこの機能はあって、新たな概念を獲得するなどによる変数の次元変換が行われることはある。ただ、新しい概念を理解したり、自分でそこにたどり着いたりって、そんなに日常的にあることじゃない。)、重要でない変数を省いたりするツール。これをモデルに適用すればモデルの変数を減らして扱いやすくすることができる。

実際の脳にはモデルの複雑化を積極的に食い止める機能がなく、脳資源の有限性のため、頻繁にアクセスされることがないモデルの一部を忘れたり、扱いきれなくなった変数の一部を考慮から外したり(「結局、一言でいうと何?」という雑な低次元化がそれ。)している。脳の資源に下手に恵まれているほどモデルが複雑になりやすく、モデル構築が放棄されて対象への回避的・攻撃的行動をとるようになるなどの「脳バグ」が現れてしまうのかもしれない。

アローダイアグラム(PERTなどの解析ツール)(N7)PERT計算は各アクティビティの開始・終了時刻と余裕時間を強力に管理する。これは脳の行動選択ステージが抱える報酬の時間割引という脳バグを補正する切り札の一つに違いない。

まとめらしいもの、そして毒

QCツールは「品質管理で活用されてきた有用性が高い手法」と説明されている。膨大な試行錯誤から選ばれてきた(こういうのを帰納的という)ツールに、脳科学(っぽい)理屈がつけられる(こちらは演繹的ってやつだ)というのは驚くべきことだ。言ってみれば帰納的な東洋医学(QC)を演繹的な西洋医学脳科学)で説明できてしまったようなもので、いかにQCが人間の脳のはたらきと密接に関係しているかがわかる。

特に特性要因図!あれを考えた石川馨先生は名実ともにQCの神だ。脳バグの地獄に垂らされた蜘蛛の糸が特性要因図……

こうしてQCツールの「構造」を分析してみると、「QC7つ道具の覚え方」のような悍ましいまでに低レベルなQCの解説が横行していることに頭を抱えたくなる。QC検定対策の情報なのだろうけど、無意味を通り越して有害だ。「QC7つ道具の名前を知っている」が得点につながる問題セットが出題されるからこんなくだらない情報が流れる。要はQC検定がQCを破壊している皮肉。やっぱり地獄かよ!


注意事項(責任逃れ)

私は脳科学神経科学の専門家どころか、体系的な勉強もしたことがありません。デタラメを書こうとはしていませんが、エビデンスや基礎理解の不足は否定できません。 「事実に基づく判断」が強調されるQCの記事なのにエビデンスを示さないとは何事かと言われたら反論の余地もないのですが……せめて原理原則は大事にしつつ考えてはいます。

また、脳は複数の領域がネットワークとして協調して機能を実現しているという立場から、脳の部位について、極力言及しないようにしています。

特にこの記事では以下のような雑な単純化が行われています。

  • 各QCツールの柔軟性を無視。
  • 脳の機能は不可分なのに、各機能にほぼ1:1にQCツールを結びつけている。

元々、詳細な脳機能ではなく「脳PDCAモデル」の記事なので、これくらいの単純化は勘弁して欲しいところ。